ご注文は 
 『手引書』として発行して来た『剣正塾教本』を『現代剣道の研究』として発刊することにしました。『教育剣道の研究』の続編であり、剣の理法に適う「正しい剣道」を求めてのことです。
 言葉が通じないとか、意味がわからないとか、言葉や用語の使用上混乱を招くことが多々あります。概念を規定しないまま言葉や用語を使うことから引き起こされていることです。剣道においても見られることです。私たちは、できるだけ言葉や用語の概念を規定し、理解し合えるように努めて来ました。例えば、「剣道」という用語があります。一般的な概念としては、国語辞典があります。手元にある『新明解国語辞典』には、「(剣道)道場剣術から出発した室内スポーツ。面、胴、篭手などの防具を着け、竹刀を用いる」とあります。しかし、眼にした剣道に関する著書には、「剣の理念」についての記述は見られますが、「剣道」ついての規定は見られません。自明のこととして省略されているのだろうと思います。しかし、実際に剣道に関わっておられる方たちの「剣道」の受け止め方には大きな相違が見られます。このことが、相互の理解を困難にしているように思います。私たちは、「剣道」を次のように規定しました。「刀や木刀を用いる剣道」を「剣術」、「竹刀を前提とする剣道」を「竹刀剣道(袋しないを用いる『しない競技』と区別する意味で『竹刀』としました)」、「刀を前提に竹刀を用いる剣道」を「剣道」という規定です。
 私たちがめざしているのは「剣道」です。「剣道」では、竹刀を刀と見立てて打突や技を使うことが求められます。それゆえ相手の剣先が自分の突きの位置にある時に構わず打ち込むことはありません。相手の竹刀を抑え(殺し)てから打突します。又、他の打ちと同じように「突き」を大事にします。「突き」をすぐれた攻め技と考えてのことです。しかし、相手に恐怖感を与えるだけの「突き」は戒めています。自制心によって制御された、心を突くほどの「突き」を求めているからです。打突と同様、打突に対する「応じ技」を重要視しています。「攻めて、相手の打ちを誘い、応じて打つ(突く)。これが剣道の妙技である」という師・泉通四郎先生の教えを受けてのことです。さらには、先達が辛苦を重ね、つくり上げて来た「技」の習得に努めています。抑え、張り、すり上げ、すり込み、切り落とし、巻き落としなど熟達することをめざしています。
 私たちは、又、剣道を教育のすぐれた手法だと考えています。特に次代を担う青少年・少女たちとの稽古にあたっては、人間としての尊厳を大切にし、それぞれの心身の発達の段階に即した稽古に心掛け、人間としての全的発達を促すことをめざしています。剣道に憧れて竹刀を握った者が、剣道に嫌気を差して竹刀を捨てるという事態だけは避けたいとの思いがあるからです。
 浅学非才、未熟な者が、先達の教えを拠り所に書き綴ったもので不十分の謗りを免れることはできません。これからも修練を重ね、先達のめざした所をめざしていたいと思います。この書が「剣道」を求める方たちにひもとかれることを切に願うものです。 
現代剣道の研究 はじめに
 泉通四郎先生は、門下生の求めに応えて、八十余年の生涯を掛けて到達された「泉流」とも言える剣道のすべてを「日記」という形で残してくれました。私たち門下生は、これを修練の「手引き」とすべく『剣道日記』として刊行しました。一九九四年六月のことです。『剣道日記』は、いわば「秘伝の書」であり、門外不出とすべきものです。しかし、先生が、長い間、心を砕いてきた「正しい剣道」の普及は、私たち門下生だけで実現できることではありません。「正しい剣道」をめざす方々の共同の遺産とすべきとの思いから公にすることにしました。発行にあたって、『剣道日本』編集部には、格段のご配慮をいただき、『剣道日本』誌上でご紹介いただきました。又、後日、『ビデオ・剣道日記』、『教育剣道の研究』の発行にあたっても同様のご配慮をいただきました。全国各地から数多くの要請をいただいただけではなく、心温まるお便りをいただきました。身に余る喜びであり、あらためてお礼申し上げます。
 泉先生は、日記の中で竹刀だけでなく体と心の動きまで言及されています。直接、手ほどきをいただいたとは言え、正しく読み取ることは容易なことではありません。「剣正塾」に集い、泉流剣道を求める方々の一助になればとの思いから、解説の意味を込めて『剣正塾教本』を書き綴ってきました。一九九六年十月、それまで書き綴ってきた教本を一冊にまとめ、『教育剣道の研究』として発行いたしました。『剣道時代』編集部からは、同誌上でご紹介いただいただけではなく心温まる励ましのお便りをいただきました。ご厚情に感謝し、心からお礼申し上げます。
 『剣道日記』や『教育剣道の研究』をとおして、いろいろな方々との交流がありました。千葉の佐藤暢朗さんからは、「泉流剣道の研究」とも言うべき三十ページを超える論文を、足掛け三年に渡り、二度いただきました。正直言って予想だにしなかったことです。多くのご教示をいただきました。あらためてお礼申し上げます。
 『教育剣道の研究』の発刊後、『剣正塾教本』の発行を止めていました。後は、読み返し、修練すればいい、との思いがあったからです。しかし、現代剣道は、私たちにいろいろな対応を求めていました。「正しい剣道」を求める者として、これらにどう対応したらいいのか、考慮しないわけには行きませんでした。こうして、再び『剣正塾教本』を書き綴ることにしました。一九九八年五月から二〇〇〇年八月末日まで九十号を数えました。この度、「なんば書房」の高橋要市さんのご助言とご援助をいただき『現代教育の研究』として発刊することにしました。自らにあらためて剣の理法に適う「正しい剣道とは何か」を問い質して行きたいと思います。「正しい剣道」を求めるあまり「現代剣道」に対し批判や提言をさせていただいております。決して特定の団体や個人を対象にしているわけではありません。もし、真意に反する記述がありましたら著者の至らなさとご理解の上、ご容赦ください。不明な点がございましたらお申し付けください。お応えしたいと思います。又、理論的な誤りがございましたらご批判ご指摘いただければさらに研鑽を積み、研究を深めたいと思います。ご指導ご鞭撻のほどお願いいたします。
 地方の名もない修練の場からの発信です。一人でも多くの方の目に触れることを願い、インターネット上にホームページを開く予定です。ご活用いただければ幸いです。
現代剣道の研究 編集後記